笛吹市 土蔵修繕工事(2020年 7月)、水合わせの原理他

経年劣化により痛んだお蔵を修繕させて頂きました。こちらのご夫婦はお蔵を直してテラスのような素敵な空間としても使われているようです。お蔵の使い途は保管以外にも、テラスやガレージ、客室などなど様々で楽しいですね。


 

 

 

 

 


土が下地の竹の層まで剥がれ落ちて、下地の竹も壊れてしまっていました。


一度すべて撤去して、新しく作ることにしました。


壁の下地となる竹木舞(たけこまい)を編みました。竹は数年前に当店で伐採して用意しておいたものになります。長く伸びた竹を切り倒して、都合の良い部分を切り出し、枝葉を払い、六つ割りにして節を削って乾かしておいたものを使っています。


土は以前にお蔵を解体した時の古土と、新土をブレンドしてあります。ブレンドすることでお互いの弱いところを補い合って強くて丈夫な壁土となります。これは昔からの知恵ですが、現代のデータでは新土と古土とでは乾燥収縮率(ひび割れの目安となる数字)に3%ほどの差が出ているようです。ブレンドされてまた新しい壁土となり、そしてまた永い年月を経て、その土もまた古土となります。


古土と新土を混ぜ合わせ、稲藁を刻んで土に混ぜ込み、水合わせをすると発酵が始まります。休んでいた土の中の微生物たちが一斉に活発に活動し始めます。

 


水合わせをすることで土の中に酸素が通らなくなります。すると酸化していた物(酸化物)から酸素が取り去られて、水素と結びつく還元という状態になります。還元とは酸化と逆のプロセスのことで、水素を得ることを還元といい、水素を失うことを酸化といいます。



 

土の中には様々な微生物が生きていますが、還元の状態になると、嫌気性生物という、酸素を必要としない生物が増殖して活動が活発になり、土をアルカリ性に変えていきます。還元とは土が酸素不足になっている状態で、農業では嫌われる状態ですが、左官屋さんとお施主さんと地球の循環のためには、とても重要なプロセスです。

 


反対に、酸素呼吸をしながらワラなどの有機物を分解する生物を好気性生物といいます。古土の中で息をひそめていた彼らは、新しい土やワラを加えて水合わせをすることで、いよいよ養分や刺激を得てとたんに元気になり、活動を再開します。ちなみにこうじ菌や納豆菌も好気性生物です。

 


こうして古い土と新しい土をブレンドして水合わせをすることで、新しく加えたワラは分解されて微細の繊維となるので、またワラを追加できるようになり、粘りと柔軟性を増してどんどんと割れに強く、左官屋さんがコテで塗りやすく永持ちする壁土となっていきます。

 


これらはみんな昔からの伝統的な知恵であり、伝統工法をやる左官屋さんやメーカーである土屋さんは、現在でも同じ原理に基づく方法で壁土を作っていますが、絶滅危惧種のようになってきてしまっています。

 


それはさらにどんどんと機械の世の中になり、伝統的な技術が失われることで、美しく穏やかな日本の原風景や日本の伝統的な建物が失われ、大切な日本の文化を失うということに直結しています。さらには、私たちは更なるストレス社会を生きていかなければならないということにも繋がっていくと思います。

 


話が逸れましたので、現場の紹介に戻ります。

 

 


仕上がると土は20cm強の厚みになるので、塗っては乾かし、塗っては乾かしという工程を何度も繰り返して新築当時の水準を目指して修繕をしました。下地にはさらに工夫を凝らして補強をしてあります。


他の痛んでいる部分も直します。


伝統工法の中には様々なテクニックがあり、どれも理にかなっています。


乾くと色やひび割れ加減が既存の部分と合ってくるように土をブレンドしました。


お蔵や古民家の修理を本来の方法で直せる左官屋さんや工務店さんはそんなにないと思います。初期費用だけを安く抑えたいのであればそれなりの工法もありますが、ランニングコストで見るとたいていは高いものになってしまいます。

 

 


本来は一代から二代で一度、きちんと直せば十分のようにも思えるのですが、まとめてやればまとまった費用も必要になってきます。なので現状を見ながら急を要する部分を考慮して、左官工事以外の部分も含めたトータル的で長期的な計画を組んでから施工をする方がよりベターだと思います。

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